海水の濃さ”比重”について
今回はマリンアクアリウムに欠かせない海水の濃さ、”比重”について考えていきましょう。比重は淡水魚では登場しない海水ならではの水質項目ですね。あまりにも基礎項目過ぎてベテランでも意外と軽く考えていることもあります。しかし、思わぬ盲点になっていることも多く、疎かにしてはならない要素です。初心者もベテランも、改めて”比重”について再確認しましょう。
さて、海水の濃さのことを”比重”と書きました。マリンアリウムの世界では今のところ海水の濃さを表す単位として比重が最もよく用いられているためです。その他には塩分濃度(パーセント、パーミル、ppm)も用いられることもあります。そもそも比重って何ぞや?と深く考えたことはありますか?
海水の濃さを表す単位”比重”
比重=真水と比べた時の重さ。1気圧4℃において真水と比べてどのくらい重いかを表す。
1リットルの真水の重さは1000gですね。では、1リットルの海水の重さは??海域によって差はありますが多くの場所で1020g~1023g前後とわかっています。そうです。海水の方が淡水より少し重いのです。どのくらい重い(つまり濃い)かを表すものが比重です。1000gと1023g、23gの差、小さいようですが1000リットルだと23kgも海水の方が重いのです。
海水は淡水よりちょっと重い。
どれだけ重いかを測ってその濃さを表す。
これが比重です。
よく似た考え方をするものに密度という単位があります。マリンアクアリウムでは密度で海水濃度を表現することはほぼありませんが、海水の密度=1023g/Lの様に密度で表現することもできます。一般にマリンアクアリウムにおいては密度は使わず、比重1.023の様に表現します。密度は単位当たり何グラムなのか(上記例では1Lあたり1023g)を表し、比重は真水と比べて何倍重いか(上記例では1.023倍重い)を表しています。密度はマリンアクアリウムでは使わないので忘れて大丈夫です。
飼育に適した比重は?
飼育に適した比重はどのくらいでしょうか?私の考える最適比重は下記のとおりです。
海水魚なら1.023、サンゴが居るならなら1.025
海水魚は1.020~1.027までの範囲であればそこまでシビアに管理する必要がありません。サンゴは1.024~1.026の間で一定の比重をキープしたいです。サンゴも魚もいる場合はサンゴ優先で合わせます。イソギンチャクの場合は1.023~1.027くらいが目安です。
時々、もっと薄い方が病気が出にくいと主張する人もいますが、私の経験上はオーソドックスな比重の方が総合的にうまくいくと思います。極端な比重は避け、セオリー通りの飼育がおすすめです。そのためにも、正確な比重計とこまめな測定、こまめな比重調整が欠かせません。
比重計の種類”フロート式比重計”
現在、最も多く利用されているのではないでしょうか。ショップでも比重計といったらまずこのタイプの比重計を勧められます。
比重とは何かを理解すればフロート式比重計の原理が理解できますね。重い水にフロートを浸漬すると浮力によって表示値が高くなるという訳です。
フロート式比重計のメリット ・安い ・入手性が良い ・手軽に測れる ・値を読み取りやすい フロート式比重計のデメリット ・気泡やよこれが付いていると正しく測定できない ・経年劣化で不正確な値を示すようになることがたまにある ・較正することはできない
手軽さが最大のポイントだと思います。たとえどんなに正確に測れたとしても、測定作業が面倒であればだんだん測らなくなってきます。測らなくなっては元も子もありません。フロート式は海水を入れるだけです。比重はコンスタントに測って常にベストな値を保つべきなのでこの手軽さはありがたいです。フロート式比重計では下記の商品はロングセラーなだけあって、信頼度が高いです。
正確な測定のコツは気泡が付着しないように海水を採取することです。フロートに気泡が付着していると表示値を押し上げてしまいます(目標の比重に合わせると海水が予定よりも薄くなる)。また、プラスチックだからといって衝撃を与えたり、洗剤やブラシなどでガシガシ洗ったりしてはいけません。逆に使用後洗わないのもいけません。析出した塩や汚れが表示値を低く押し下げてしまいます(目標の比重に合わせると海水が予定よりも濃くなる)。特にフロート部は繊細な測定器です。丁寧な取り扱いが精度と寿命を保つコツです。また、経年で値が不正確になる傾向があります。壊れなくても2~3年程度毎に新しいものに交換することをおすすめします。
フロート式の比重計は気泡の付着に注意してください
ベテラン程、忙しい時についつい雑に海水を採取して気泡付きの値を読んでしまいがちです。落ち着いて比重を測りましょう。
比重計の種類”ボーメ計”
近年マリンアクアリウムではあまり用いられなくなってきている印象があります。ボーメ計も広義のフロート式ですが、ここでは別々に取り上げます。
ボーメ計のメリット ・安い ・適切に取り扱っていれば長期間正確な値を示す場合が多い ボーメ計のデメリット ・気泡やよごれが付いていると正しく測定できない ・ボーメ計の長さ以上の水深がないと測定できない ・水面が完全に静止していないと測定できない ・値を読み取りにくい、読み取りにコツが必要 ・細かい数値が読み取れない(大雑把にしか読み取れない) ・ガラス製のため割れることがある ・較正することはできない
2番目のデメリット”水深を要する”点が結構不便かもしれません。浅いバケツや、少量海水を作る時の測定ができないので弱点ですが、モノ的には長期間正確な値を示します。メモリとメモリの間隔が小さく、読み取りには多少の慣れを要します。ガラス製のため雑に扱う人は少ないですが、割ってしまうと破片でけがをする恐れもあります。ボーメ計の示す数値は”ボーメ度”という単位なので比重に換算します。下記に換算表を示します。
ボーメ度 | 比重 |
2.5 2.6 2.7 2.8 2.9 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3.7 3.8 3.9 4.0 | 1.0176 1.0183 1.0191 1.0198 1.0205 1.0212 1.0220 1.0227 1.0234 1.0241 1.0249 1.0256 1.0263 1.0270 1.0278 1.0285 |
もっとも利用されているボーメ計は下記のものです。大変長期間安定した数値を示すため、フロート式を使っている人も1本持っていると安心です。
また、ボーメ度ではなく比重が直接書かれているタイプもあります。換算しなくてよいので便利です。
比重計の種類”屈折計”
私の推しは屈折計です。海水の濃度によって光の屈折率が変わる現象を利用した比重計です。近年は屈折計の良さが広まり、フロート式やボーメ計と比べてやや高価ながら徐々に浸透してきました。
屈折計のメリット ・数滴の海水があれば測定できる ・手軽に測れる ・較正ができる ・長期間正確な比重を測れる 屈折計のデメリット ・やや高価
やや高価ではありますが、長持ちで、長期にわたり渡り正確な比重を示すため結果的には安くつきます。較正は真水を用いたゼロ合わせで済むので専用の較正液なども不要です。
1滴ほどの水で測定できます。はじめに真水を1滴、滴下して較正(ゼロ合わせ)を行います。
付属のドライバーで1.000に青い線が重なるように調整します。ゼロ合わせが完了したら、真水を拭き取り、次に測定したい海水を1滴、滴下して同じように測定します。
青い線の位置は1.025と読み取れますね。私の手持ちの屈折計を紹介しましたが、今はより優れたマリンアクアリウム用の屈折計が登場しており、今選ぶなら下記の様な25℃海水濃度用の屈折計がよいでしょう(私のものは20℃塩分濃度用)。
フロート式やボーメ計と比べて高価ですが、生体を亡くしたり、比重計が原因でなぜか飼育がうまくいかないような事象を避けることができるため、結局は安くつく可能性が高いです。一家に1本、屈折計を!(と言いたいくらいの推しです)
より精密に屈折計を使いこなすなら・・・ ★較正に使用する真水は水道水ではなく精製水を使用しましょう。薬局で1本100円程度で売られています。1本で屈折計用なら一生分くらい入ってます。 ★較正用精製水の水温は飼育水の温度とできるだけ近くしましょう。真冬において、精製水一桁℃、飼育水28℃のように温度差が大きいと誤差が大きくなります。屈折計が備えるATC(自動温度補正機能)は測定水温の差を補正するものではなく、室温と屈折計の温度差を補正しているにすぎないためです。
比重計の種類”電子式塩分濃度計”
センサーを海水に浸漬して測定します。多数の水槽の水をどんどん測定する際などは便利ですが、ホームアクアリウムレベルではオーバースペックな印象もあります。
電子式塩分濃度計のメリット ・デジタル表示のため読み取り誤差がない ・多数の水を測る時に便利 ・適切に較正すれば正確な濃度を測れる 電子式塩分濃度計のデメリット ・高価 ・較正できるが専用の校正液が必要 ・電池がないと動かない
どちらかというとプロフェッショナル向けと思います。近年は安価なマルチテスターも出回り始めていますが、測定可能な項目が増えるほど較正液の種類も必要になり、精度にも疑問が残るためマルチテスターはおすすめしていません。特に多数の水槽を持っている場合はおすすめです。
比重に関する落とし穴
冒頭にも書きましたが、経験を積んだキーパーでも比重が盲点になっている事がよくあります。比重計自体が劣化して不正確であったり、比重計を適切に使いこなせていない事が原因の大半を占めます。どんな最高の機材をそろえて頑張って飼育しても、比重が正しく測れていないと何をやってもうまくいかないのです。「色々やってもどうも飼育がうまくいかないんだ~」と相談を受けた際は、真っ先に比重はちゃんと測れてる?と問いかけます。たいてい測れているよ!と回答が返ってきますが、水を持って来てもらうと案の定ズレズレ。あらら1.016だよ・・・、うわー1.035だよ・・・。あるあるです。
また、たまにですが蒸発した飼育水を海水で補充してしまう事例があります。塩分は蒸発しないため、真水で薄めないとどんどん比重が高くなってしまいます。
蒸発分の足し水は真水で!!
マリンアクアリウムの起点である海水の比重。まずは比重です。みなさん、比重を正確に~!!!