前編では、トリコディナ病の特徴や症状、そして白点病との違いについて詳しくお伝えしました。ここまで読んでくださった方は、トリコディナ病が「気づいた瞬間に動き出すべき病気」だということを、すでに実感されたと思います。
では実際に、トリコディナ病を発症したクマノミ(ペルクラクラウン・カクレクマノミ)をどうやって救うのか?初心者でも本当に対応できるのか?この後編では、私が実際にトリコディナ病と向き合い、発症から回復までたどった リアルな治療ドキュメントを中心に、具体的な手順と再発防止策をまとめました。
水槽の前で不安になっている人が「これを読めば動ける」ように、できるだけ迷いがなくなる形にしています。それでは実際の治療記録とともに、トリコディナ病からクマノミを救う方法 を見ていきましょう。
<重要注意事項>
トリコディナ病の治療では、淡水浴や薬浴による強いストレスが魚にかかります。淡水浴は時間を誤ると急激な浸透圧変化により命を落とす危険もあり、また薬浴についても薬剤の選択・濃度・水質管理を一つ間違えると深刻なダメージを与えかねません。治療を行う場合は、必ず魚の状態をよく観察し、無理のない範囲で慎重に進めてください。当サイトの記述はあくまでも私個人の経験談であり、同じ方法で同じ結果が得られることを保証するものではありません。特に病気治療は環境・個体差によって大きく結果が異なります。当サイトを参考にしたことによって生じたいかなる損害についても責任を負いかねます。自己責任にて治療を行っていただきますようお願いいたします。
不調の気配・・・発病の前段階
トリコディナ病との戦いはある小さな違和感から始まりました。
メスのクマノミ(ペルクラクラウン・カクレクマノミ)を水槽に導入してから5日目、前日と比べて背びれに張りがなく、イソギンチャクの下側でじっとしている時間が明らかに長くなったのです。
餌は普通に食べていたため、この時点では「様子見でOK」レベルの不調。ですが、トリコディナ病の多くは “発病の前段階では膜が目に見えない” ため、この時の観察が後から非常に重要だったとわかりました。

この段階では体表に膜は出ておらず、トリコディナ病とは確定できていません。
<後になって気づいたこと>

撮影していた写真を拡大すると、顔や背中に白っぽい極小のスポットが見えました。これが膜の前段階と考えられます。白点病の点とは違い、非常に淡く小さいスポットのため、肉眼では見逃してしまうレベルです。この時点で治療開始はしませんが、「悪化 or 回復どちらにも転ぶ“要警戒ゾーン”」であることだけは間違いありません。
トリコディナ発病確定
不調の気配を感じてから4日後。メスのクマノミの体表に 明確な“白い膜・にごり” が現れました。白点病の「点」ではなく、面で広がるトリコディナ特有の膜状のにごりです。


トリコディナ病発症で確定です。
ここでトリコディナ病確定の判断をしたポイント
・白点病のように「点」ではなく、膜のような“にごり”が体表を覆っていた
・症状の進行が早い(白点病よりスピード感がある)
・体色がくすみ、光沢が失われていく
・ヒレを閉じている時間が長くなる
白点病との違い詳細については前編をご覧ください。
こうなったら待ったなしで治療開始です。淡水浴が命を救う唯一のルートです。
淡水をつくる
バケツ、プラケース、小さい水槽、どのようなものでも良いので、魚が多少暴れても飛び出さない高さの容器に淡水(水道水)を張ります。容器の水に、規定量の塩素中和剤を入れ、強めにエアレーションをかけます。

グリーンFゴールド顆粒を入れる
グリーンFゴールド顆粒を秤量し、前記の淡水に入れて溶かします。
淡水4Lあたりに0.05gのグリーンFゴールド顆粒を溶かします。(規定量の半量)
この量がとにかく微量で、正確に計るのが難しいのが難点です。本気で正確に秤量する場合は高額なスケールが必要になってしまいます。とはいえ大丈夫。経験上グリーンFゴールド顆粒は多少投薬量に誤差があっても重篤な影響が起きていないため、概ねの重さが測れるスケールで差し支えないと考えています。わたしが実際に使用している安くて何とか実用に耐えるスケールを下記に紹介します。

このスケールは激安ながらそこそこの性能を持っています。測り取れる最小の重さとしてはだいたい0.05g~といった印象ですが、グリーンFゴールド顆粒の秤量に十分実用性があります。

0.05g以下も表示されますがブレが大きく、0.05gぐらいが実用下限かと思われます。
滅多に使わないスケールに予算を割くのはもったいないのでわたしはこの激安スケールを使用しています。

参考実験として1円玉を載せてみたところ1.00gとこの重さ領域では十分に正確であることがわかりました。これ以下の標準となる重さのものがないため、これ以上正確性を検証できませんが、一定レベルの正確性は持ち合わせていることを感じさせます。
グリーンFゴールド顆粒を秤量できたら淡水に溶かします。
ヒータを入れてエアレーション30分

グリーンFゴールド顆粒が完全に溶解したら、ヒーターを入れ、飼育水と同じ温度に合わせながらエアレーションを30分継続します。
これで淡水浴に使う“治療用淡水”が完成です。
隔離ボックスの用意
淡水が完成したら、早速病魚を淡水浴させたいところですがその前にまだ準備があります。隔離ボックスの準備です。
淡水浴は 1日1回 × 数日連続 で行います。そのため、毎回捕まえるのは魚に負担が大きいため、治療期間中は隔離ボックスに入れて過ごしてもらいます。
わたしが使用している隔離ボックスは以下の2つです。
魚体が小さければGEXの「育てるお守りケース」も最高に便利です。

淡水浴前に本水槽に隔離ボックスを浮かべておきましょう。
淡水浴の実施
問題がなければ、病魚を水槽から掬い、そっと準備した淡水に泳がせましょう。
淡水浴を行う時間は魚の大きさにもよりますが、5cm前後のクマノミの場合7~8分を目安に行います。淡水浴中、魚は意外にも普通に泳いでいると思いますが、ぐったり横たわったり明らかにパニック状態になっている場合は即座に中止してください。

所定の時間が経過したら、淡水浴の終了です。
トリコディナ病の膜を指で除去する工程を行っている方もいらっしゃいますが負担が大きすぎると考えているためわたしは行いません。所定時間の淡水浴が完了したら、飼育槽(に浮かべた隔離ボックス)に戻します。
魚を飼育水槽(隔離ボックス)に戻す
海水から淡水へ行く時よりも、淡水から海水へ戻る時の方が負担が大きいため、海水に戻すときは、少し時間をかけて段階的に海水に戻します。
1・淡水浴完了
2・淡水3:海水1の濃度で1分間
3・淡水2:海水2の濃度で1分間
4・淡水1:海水3の濃度で1分間
5・飼育水(海水)へ
と徐々に慣らして海水に戻します。これを守ることでショックを最小限に抑えることができます。
隔離ボックス暮らしへ

1日目の淡水浴を終えたら、隔離ボックスに戻します。淡水浴を行う期間が終了するまでは隔離病棟での生活をしてもらいます。
2~4日目・1日1回の淡水浴
前日と同じ手順で新しい淡水を準備し、2回目の淡水浴を行います。以降、病魚の体調と病状の様子を見ながら標準的には4日目位まで1日1回の淡水浴を行います。
5日目・病状チェック(淡水浴なし)
5日目になれば、淡水浴の効果が出ているか、出ていないかハッキリしてくるころです。この日までに膜が明らかに減っている場合は、淡水浴を中止して様子見に入ります。私の例では、この時点で膜は「うっすら残る程度」まで改善していました。
膜がまだしっかり残っている場合は淡水浴を継続しますが、5日を超える連続淡水浴は魚へのダメージが増えるため慎重に判断します。5日目に症状改善が全く見られない場合は、本当にトリコディナ病なのか、本水槽の環境は適切かを含めて今後の対処方針の再検討をすべきと考えます。
6日目・病状チェック(淡水浴なし)
昨日淡水浴を行いませんでしたが、ペルクラさんの膜は明らかに減少傾向です。本日も淡水浴はなしです。ちなみに、淡水浴を停止したことで再び膜が出るようなら再度淡水浴を行います。
7日目・病状チェック(完治判定)
膜はほぼなくなっています。完治判定をいたしました。久々に隔離ケースから解放され羽を伸ばすペルクラさん(写真上)。下のオス君もずっと心配していました。

ペルクラメスさん、背びれがまだたたまれていて病み上がりといった感じですね。でも、トリコディナ病はすっかり退治してあとは体力を戻すのみ!!
参考:淡水浴のダメージ
トリコディナ病に効果的な淡水浴ですが、魚にはダメージがあります。

上の写真はトリコディナ病の完治判定の日(=7日目)のペルクラさんです。尾びれが溶けて黒縁がなくなっています。また、全体的に瘦せ始めてもいます。病気は治りましたが、淡水浴は確実に負担になっています。負荷がかかっている点は認識をしておく必要があります。
完治から14日後

すっかり元気になりました。背びれのハリも完全復活。
完治から1か月後

尾びれの黒縁も完全に復活。絶好調になりました。
FAQ

トリコディナ病は自然に治ることはありますか?

基本的に自然治癒は期待できません。軽症に見えても体表に寄生したトリコディナ原虫は増殖を続けるため、放置すると急激に悪化するケースがほとんどです。一時的に元気に見えても、数日後に一気に症状が進むことがあります。「様子見」が危険な選択肢になりやすい病気です。

治療用の淡水は、一回使用するごとに新しい淡水を作り直すべきですか?一度に数回分の淡水を作成してはいけませんか?

手間ですが治療用の淡水は毎日毎回作りましょう。1回ごとに水道水に、中和剤滴下、薬溶解、水温調整、エアレーション30分の工程を経て作りたての淡水で治療をしてください。

phは合わせなくて良いのでしょうか?

水道水の水質が特殊な地域でない限り合わせる必要は感じていません。我が家は東京エリアですが、phは合わせていません。

治療期間中は餌を与えるべきでしょうか?

はい。体力を維持するため、免疫力を高めるために餌はしっかりと与えてください。

魚へのダメージが心配なので半海水で淡水浴(半淡水浴)を行う事は有効でしょうか

半淡水浴では効果は薄いと考えます。純淡水浴に耐えない程衰弱しているが、どうしても淡水浴をしたい場合にいちかばちか実施する価値はあるかもしれませんが、かなり追い込まれた状況での苦渋の選択肢としてしか考えにくいです。

指で膜を除去しなくても治りますか?

わたしの経験上では指で膜を除去しなくても治ります。指で膜を除去するダメージがめちゃくちゃ大きいと考えるため、膜の物理除去はわたしは行いません。

グリーンFゴールド顆粒を備えていなかったが一刻も早く淡水浴の必要に迫られている。グリーンFゴールド顆粒なしで、淡水浴をする価値はありますか?

一刻も争う進行具合の場合、薬なしでも淡水浴を行う価値はあると考えます。薬で治すのではなく、淡水浴で治すためです。

トリコディナ病は他の魚に感染しますか?

同居魚に感染したケースは多数報告されており、感染リスクは十分あります。一方で我が家では他の魚に感染したことはありませんので、必ず感染するわけではなく、弱っていったり体力が落ちていると感染すると理解しています。
トリコディナ病を再発させないために(重要)
トリコディナ病は、一度治しても飼育環境が同じであれば再発する可能性がある病気です。ここでは、今回の治療経験を通して「これはやっておくべき」と感じた再発防止ポイントをまとめます。
◆新規導入時の対策
クマノミ類は外見上元気に見える個体でも、体表にトリコディナを保有しているケースは珍しくありません。
・導入後1週間は特に注意深く観察
・導入直後の淡水浴(短時間)
を行いましょう。
◆「ストレス」を減らす
・強すぎる水流
・隠れ家不足
・相性の悪い同居魚
・過密飼育
・エサ不足
これらに陥らないように注意しましょう。「水質は問題ないのに病気が出る」場合、ストレスが原因であることが非常に多いです。
◆日常観察で見るべきチェックポイント
再発防止には、毎日の観察が何より重要です。特に注目するポイント:
・背びれや尾びれの張り
・体表のツヤ、くすみ
・泳ぎ方(同じ場所でじっとしていないか)
“昨日と違う”を感じたら要注意。早期発見できれば、重症化を防げます。
◆殺菌灯の使用
可能であれば、UV殺菌灯の導入は再発防止に非常に有効です。水中を漂うトリコディナ原虫の数を減らす効果が期待できます。治療ではなく「予防」として使う意識が大切です。
白点病の記事でも推奨しましたが、アズーの殺菌灯はポンプ内蔵、配管不要、投げ込み式で大変便利です。
より本格的なものであればカミハタのターボツイストZシリーズになりますね。
◆治った直後こそ油断しない
完治直後は、魚の体力が完全に戻っていない状態です。このタイミングでの無理な環境変化や新魚導入は、再発の引き金になります。
・完治後1〜2週間は安静重視
・新魚追加は最低でも2週間以上空ける
・水換えは少量・慎重に
「治ったから大丈夫」な時期ほど、注意が必要です。
◎再発防止のまとめ
トリコディナ病は治療よりも、再発させないことの方が重要です。
・導入対策
・水質管理
・ストレス軽減
・毎日の観察
この4つを意識するだけで、再発リスクは大きく下げられます。
「トリコディナ病は早期発見&早期治療、そして再発させない環境づくり」これをぜひ覚えておいてください。
トリコディナ病は早期発見&早期治療
トリコディナ病は、気づいたときには重症化していることが多い病気ですが、逆にいえば「わずかな違和感」に気づければ、治療の成功率はぐっと上がります。今回の体験からあらためて感じたのは、毎日の観察の大切さということでした。
背びれの張り、泳ぎ方、体表のくもり――こうした小さなサインを見逃さず、早めに対処することで救える命が確実にあります。あなたの大切なお魚たちを守るためにも、日々の観察と迅速な判断を心がけてください。
最後にもう一度強調します。「トリコディナ病は早期発見&早期治療」これがポイントです。健やな水槽ライフを送りましょう!!
<重要注意事項>
トリコディナ病の治療では、淡水浴や薬浴による強いストレスが魚にかかります。淡水浴は時間を誤ると急激な浸透圧変化により命を落とす危険もあり、また薬浴についても薬剤の選択・濃度・水質管理を一つ間違えると深刻なダメージを与えかねません。治療を行う場合は、必ず魚の状態をよく観察し、無理のない範囲で慎重に進めてください。当サイトの記述はあくまでも私個人の経験談であり、同じ方法で同じ結果が得られることを保証するものではありません。特に病気治療は環境・個体差によって大きく結果が異なります。当サイトを参考にしたことによって生じたいかなる損害についても責任を負いかねます。自己責任にて治療を行っていただきますようお願いいたします。

